芒種(9節気6/5~6/20)

 「芒(のぎ)」とは稲や麦などイネ科植物の穂先にある針のような突起のこと。芒のある穀物の種をまく頃を意味します。実際はズレがあり日本ではまき終わっています。

 ■ 芒種の節気に関連する行事・風習

項目内容
田植え各地で本格的な田植えが始まる時期。特に西日本では「早乙女」が登場する神事や「御田植祭」が盛んに行われる。例:伊勢神宮・明治神宮の御田植神事。
入梅(にゅうばい)芒種の数日後に「入梅」(暦上の梅雨入り)があり、農業にとっては水を確保する大切な時期。
梅の収穫・梅仕事梅の実が熟しはじめ、「梅干し」「梅酒」作りが始まる家庭の保存食文化も盛んになる。
虫送り稲の害虫を追い払う行事。松明を持って田をめぐる。徳島・岡山・石川などの伝統行事。
衣替え6月1日は全国的に衣替えの日。芒種の頃には夏用の衣類や生活様式に完全に切り替わる。

 ■ 各地の関連行事

地域行事名概要
奈良県斑鳩町御田植祭(法隆寺)田の神に豊作を祈願し、早乙女が田植えの所作を奉納。
和歌山県田辺市奇絶峡の虫送り松明を振りかざして田を練り歩き、害虫退散を祈る。
島根県出雲市出雲大社 御田植祭出雲大社ゆかりの神田で田植えを行い、収穫を願う。
香川県高松市梅酒まつり地元産梅を活用した「梅仕事」の文化的発信。

【一】六月十六日「和菓子の日」

 千年を超えて受け継がれる、菓子に託した祈りのかたち、六月十六日は「和菓子の日」。この美しい習わしには、古代から人々が菓子に願いを託してきた歴史が込められています。
 その起源は、なんと平安時代――西暦848年(嘉祥元年)にさかのぼります。

 時の仁明天皇が、疫病の流行を憂い、6月16日に「嘉祥(かじょう)の儀」と呼ばれる行事を行い、16個の菓子や餅を神前に供えて健康と厄除けを祈ったと『続日本後紀』に記録されています。

 江戸時代には将軍家でもこの嘉祥の習わしが継承され、庶民も「嘉祥菓子」を買い求めて無病息災を願うようになりました。現代ではこの伝統を受け継ぐ形で、1979年に全国和菓子協会が「和菓子の日」と制定しました。

 この日、老舗の和菓子店では、練り切り、羊羹、水無月(みなづき)など、涼やかな季節の菓子が並びます。美しさ、素材の繊細さ、そして文化を味わう――和菓子は、ただの「おやつ」ではなく、日本人の祈りと美意識が形をなした芸術のようですね。牡丹餅もいいですね。

【二】雨に映える「紫陽花(あじさい)」

――心の移ろいを映す、梅雨の鏡

 芒種の時期、まるで季節の水彩画のように咲き誇るのが紫陽花です。梅雨の雨粒をまといながら、庭先やあぜ道、寺の石段にしっとりと佇むあじさいの姿は、この季節ならではの風情を感じさせます。

 紫陽花は土の酸性度によって花の色が変わる性質があり、青や紫、赤、白と多彩に咲き分けます。そのことから**「移ろいやすい心」「七変化」**という花言葉を持ち、万葉の昔から和歌にも詠まれてきました。

「言問はぬ 木すらあぢさゐ 諸弟らが 練りのむらとに あざむかえけり」
(大伴家持『万葉集』巻二十・4448)

 家持は、あじさいが咲く村に兄弟たちと旅をし、その色彩のあでやかさに心を奪われたと詠みました。
 また、鎌倉の明月院や京都の三室戸寺など、**「あじさい寺」**と呼ばれる名所は、雨の季節にこそ訪ねたい静けさと神秘に包まれています。

**湿り気のある空気に、色彩がにじむように咲く花。**それはまるで、雨にぬれた私たちの感情までも、そっと咲かせてくれるようです。

 ハイドランジアのブルースカイなんかいいですね。

【三】旬のごちそう「時鮭(ときしらず)」

――暦を越えて現れる、北の海の贈り物

 芒種の頃、魚好きが待ち望む旬の味覚があります。それが「時鮭(ときしらず)」。
 北海道や東北で水揚げされるこの鮭は、本来の産卵期(秋)ではなく、春から初夏にかけて迷い込んでくる特別な鮭。
 名前の由来も「時を知らず=時季外れ」という意味ですが、実はこの“迷い魚”こそが、脂がのっていて極めて美味とされる、季節の逸品なのです。

 産卵前の鮭は卵や白子に栄養を取られておらず、身の脂のりは最高潮。
塩焼きにすれば、皮はパリッと香ばしく、箸を入れればほろりとほどける身から、じゅわっと広がる旨味の甘み。お弁当にも、酒の肴にも、食卓に季節の贅沢をもたらしてくれます。

 古くはアイヌ民族もこの鮭を「エカシオペ(長老の魚)」と尊び、自然からの一時限りの贈り物として大切に味わってきました。

 

 芒種は「命を植える季節」であると同時に、雨とともに文化も芽吹き、花と味覚に彩られる時間でもあります。
 伝統の和菓子に、しっとり咲くあじさい、旬の恵みの時鮭――
 自然と人の営みが織りなす、美しい時間の層に、耳と舌と心を澄ませてみてはいかがでしょうか。

 皆様の山荘に咲く紫陽花はあなたを待っている? 是非、来山して麗しき姿を観るのはいかがでしょうか。

 


投稿日

カテゴリー:

投稿者:

タグ: