この節気は、「陽気盛んにして万物盈満(えいまん)す」という意味を持ち、草木や穀物が勢いよく成長し、命が満ちていく時期を表しています。
この時期の祭で有名なものは次のようです。

1. 埼玉県秩父地方「養蚕祈願祭(ようさんきがんさい)」
- 場所:埼玉県秩父市・皆野町ほか
- 時期:5月中旬~下旬
- 概要:蚕(かいこ)を育てる前に、豊蚕(ほうさん)を祈願する伝統行事。
- 背景:秩父地域は古くから絹織物の産地として栄え、養蚕信仰が根づいています。蚕神「蚕影山大権現(こかげさん)」への参拝が行われます。
- 特徴:小満は「蚕起きて桑を食う」と言われる頃であり、桑の若葉も出そろいます。農家はこの時期を大切にし、神前に繭や桑の枝を供えます。
2. 滋賀県東近江市「馬見岡綿向神社・御田植祭」
- 場所:滋賀県東近江市五個荘
- 時期:毎年5月下旬(小満の頃)
- 概要:五穀豊穣を願う御田植神事。早乙女姿の女性が苗を植え、神事を演じる。
- 文化性:古代からの稲作儀礼を今に伝える祭り。神楽とともに神前で丁寧に再現される。
- 特色:地域の若者たちも積極的に参加し、神事と地域コミュニティが融合する形態。農耕文化と信仰の結節点。
3. 山梨県甲府市「桑摘み体験と養蚕文化祭」
- 場所:山梨県甲府市・身延町
- 時期:5月下旬の週末
- 概要:桑摘み体験や古民家での座繰り(ざぐり:糸を取る作業)体験ができるイベント。
- 背景:山梨はかつて生糸の一大生産地。小満期の蚕育てが盛んな時期に合わせた催し。
- 意義:郷土の養蚕文化継承と観光資源化が進み、世代を超えた交流の場ともなる。
4. 京都府久御山町「田植え神事(御田植祭)」
- 場所:京都府久世郡久御山町 神奈備神社など
- 時期:5月20日前後
- 概要:神職や地元農家による神田での田植え。舞や祝詞が奉納され、神聖な雰囲気。
- 伝統性:古代からの「田の神祭り」の流れを汲む。田植え作業を神聖視する意識が強い。
- 小満との関連:苗が育ち田に移される時期と一致し、小満の「万物盈満(えいまん)」の象徴となる。
5. 熊本県山鹿市「山鹿灯籠作り始め」
- 場所:熊本県山鹿市
- 時期:小満ごろに翌月の山鹿灯籠まつり準備が始まる
- 概要:和紙と金箔を用いた繊細な山鹿灯籠(かぶり灯籠)づくりの季節開始。
- 背景:夏の盆の精霊迎え行事でありながら、制作工程が早くから始まる。小満はその端緒となる。
- 季節感:「山鹿の夏は小満に始まる」ともいわれる。季節の移ろいを形にする文化的表象。
小満の空には、春の名残がほんのりと残りながらも、陽光はぐっと強くなり、風は草木の香を含み始めます。麦の穂がわずかに揺れるその景色には、静かな躍動が満ちています。青葉は艶やかに、田の水は朝日を映してゆらぎ、空には薄雲が帯のように流れてゆきます。何か命という命が、自らの力を知り始めるようなとき? それが小満です。
そして、次なる節気「芒種」では、いよいよ田植えの本番を迎えます。
高原クラブの隣にある農家さんたちも苗づくり本番です。田園に鏡張りされた水面はとても綺麗ですね。ふと車を止めて一時眺めるのもよいですね。
小満の時季の俳句などは・・・
小満の 空やくもりて 麦の波
飯田蛇笏(1885–1962) 『山廬集』
小満の空は必ずしも快晴とは限らず、曇りがちの日もあります。その下で、風にそよぐ麦畑が「波」のように揺れる様子を表現。自然の呼吸が感じられる一句ですね。
青葉繁る山のしづくにぬれつつも 世の憂きことの忘らるるかな
『後拾遺和歌集』巻七・夏歌、源俊頼(平安後期)
青葉の滴に濡れながらも、自然の中にいることで世俗の憂いを忘れるという心情。小満の青葉が茂る山の景に通じます。
夏来ぬと 目にはさやかに見えねども 風の音にぞ おどろかれぬる
『古今和歌集』夏歌、藤原敏行
視覚よりも風の音で季節の移ろいを感じるという、感覚の鋭さが際立つ名歌。 小満の「気づかぬうちに満ちる」イメージに近い感性がそのにはあります。

◆ 小満の節気を代表する花(見頃・象徴性つき)
花の名前 | 見頃 | 象徴・特徴 |
---|---|---|
ツツジ(躑躅) | 4月下旬~5月末 | 春の名残と初夏の入りを告げる花。各地でツツジ祭りが開催される。色彩が鮮やかで、群生美が魅力。 |
シャクヤク(芍薬) | 5月中旬~下旬 | 「立てば芍薬…」の美人の代名詞。端正で気品ある姿から、初夏の花の女王とも呼ばれる。 |
ハナショウブ(花菖蒲) | 5月下旬~6月中旬 | 梅雨入りの兆しとともに咲き始める。水辺に映える色とりどりの花。各地で花菖蒲園が見頃を迎える。 |
クレマチス(鉄線) | 5月中旬~6月 | 洗練された形と豊富な色彩。蔓植物で、洋風庭園にも人気。欧州では「つる植物の女王」とも。 |
ナデシコ(撫子) | 5月下旬~秋 | 細やかで可憐な花弁。「大和撫子」の語源ともなった日本古来の花。端午の季節感も帯びる。 |
皆様、いまだ日中の気温差が大きい時期、体調管理は大変でしょうが、お体お大切にお過ごしください。
また、思いっきり清々しい空気を感じていただくために入山していただければ幸いです。鶯も囀っています。